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大阪地方裁判所 昭和50年(わ)487号 判決

主文

被告人を懲役一年一〇月に処する。

未決勾留日数中二〇日を右刑に算入する。

押収してある別紙目録(一)ないし(十三)記載の各物件および銀紙包み入り覚せい剤粉末一包をいずれも没収する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、法定の除外事由がないのに、

第一、昭和五〇年二月六日大阪市住吉区山之内町二丁目八二番地の自宅において、別紙目録(一)ないし(三)記載のけん銃等、別紙目録(四)(五)記載の刀剣類および別紙目録(六)ないし(十三)記載の火薬類を所持し

第二、同月一八日午後零時五分ごろ、同市南区久左衛門町三八番地所在のホテル「ブリッジ」四〇六号室において、フェニルメチルアミノプロパン塩類を含有する覚せい剤粉末銀紙包み入り一包(〇・一五グラム)を所持し

たものである。

(証拠の標目)≪省略≫

なお、弁護人は、別紙目録(三)記載の二二口径回転弾倉式改造けん銃が差押の時点では解体された部品の状態であり、のちに警察官が組み立てたものであるから、この点はけん銃の所持にはあたらず無罪であると主張する。判示第一の事実に関する前掲各証拠によれば、右けん銃の部品が発見されたのは判示被告人方の二階八畳間の書棚であり、そのうち弾倉は上の引出しに、銃身、プラスチック製の銃把、ネジ、スプリングは各別に下の引出しにあったことが認められる。しかし、これらはいずれも相互に非常に近接した場所にあり、その所在を被告人は明確に知悉していたこと、被告人は当公判廷において右けん銃を分解、組立てているが、その操作は実に容易であり、時間も殆んど要しないものであること、組立後の右けん銃は殺傷力ある金属製弾丸を発射する機能を有し、過去に発射されたこん跡を有することが認められる。以上の事実にかんがみれば、弾倉等が銃身からはずされていたとしても、これを直ちに組立てて通常の機能を有するけん銃として使用することが容易に可能な状態にあったのであるから、右けん銃は銃砲刀剣類所持等取締法二条一項所定の「けん銃」に該当するものといわなければならない。よって、弁護人の右主張は採用できない。

(累犯前科)

被告人は、昭和三七年四月一九日大阪地方裁判所で暴力行為等処罰ニ関スル法律違反、銃砲刀剣類所持等取締法違反、殺人、殺人未遂および傷害の各罪により懲役八年に処せられ(昭和三八年一〇月一日確定)、昭和四五年三月一三日右刑の執行を受け終ったものであって、右事実は前科調書によってこれを認める。

(確定裁判)

被告人は、昭和四九年六月一七日大阪地方裁判所で銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪により懲役六月に処せられ、右裁判は昭和五〇年三月一四日確定したものであって、右事実は検察事務官作成の報告書によってこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為中、別紙目録(一)ないし(三)記載のけん銃等の所持の点は包括して銃砲刀剣類所持等取締法三条一項に違反し、同法三一条の二第一号に該当し、別紙目録(四)(五)記載の刀剣類所持の点は包括して同法三条一項に違反し、同法三一条の三第一号に該当し、別紙目録(六)ないし(十三)記載の火薬類所持の点は包括して火薬類取締法二一条に違反し、同法五九条二号に該当し、判示第二の所為は覚せい剤取締法一四条一項に違反し、同法四一条の二第一項一号に該当するところ、右判示第一の別紙目録(一)ないし(三)のけん銃等の所持と別紙目録(四)(五)の刀剣類所持と別紙目録(六)ないし(十三)の火薬類所持とは一個の行為で三個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として最も重い別紙(一)ないし(三)のけん銃等の所持についての銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪の刑で処断することとし、所定刑中懲役刑を選択し、判示第一、第二の各罪は前記の累犯前科との関係で再犯であるから、いずれも刑法五六条一項、五七条によりそれぞれ再犯の加重をし、右各罪は前記確定裁判のあった銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪と同法四五条後段の併合罪であるから、同法五〇条によりまだ裁判を経ない右各罪についてさらに処断することとし、なお、右各罪もまた同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い判示第二の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年一〇月に処することとし、同法二一条により未決勾留日数中二〇日を右刑に算入し、領置した別紙目録(一)ないし(五)記載の銃砲刀剣類は、いずれも判示第一の銃砲刀剣類所持等取締法違反の犯罪行為を組成した物であり、領置した別紙目録(六)ないし(十三)記載の火薬類は、判示第一の火薬類取締法違反の犯罪行為を組成した物であり、いずれも犯人以外の者に属しないから、いずれも刑法一九条一項一号、二項によりこれを没収し、また、領置した銀紙包み入り覚せい剤粉末一包は、判示第二の覚せい剤取締法違反の犯罪にかかる覚せい剤で犯人が所有するものであるから、覚せい剤取締法四一条の六によりこれを没収し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文を適用してこれを被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

被告人は本件第一の犯行中、銃砲刀剣類所持の点につき趣味として収集していた旨述べているが、多少趣味という気持ちがあったとしても、けん銃、単発式銃、脇差、槍といったきわめて危険性の高いものを多数所持し、それと同時に多数の実包や空包を所持していたものであって、また、その入手先も主として暴力団関係であり、被告人自身も暴力団構成員であったことにかんがみ、その犯情はきわめて悪質であるといわなければならない。しかも、被告人は、殺人、同未遂等の凶悪犯罪によってすでに懲役八年の刑に服し、現在も銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪により服役中であり、同種前科・前歴がありながらさらに本件犯行を繰り返した点を考慮すると、被告人には遵法精神の欠如が顕著に窺われる。もっとも、被告人は、これを機会に反省し、服役後は内妻江本悦子の両親の経営する仏具商に勤める決意を披瀝し、内妻もその指導監督を約束していることなど被告人に有利な諸事情を考慮して、主文のとおり量刑する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 古城敏雄)

〈以下省略〉

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